
重鎮経営者は引退せよ
現代日本の羅針盤: 「新しい資本主義」の価値再定義と未来への「破壊と創造」
現代社会が変化の波に揉まれるなか、日本経済は長期低迷期を抜け出し、新たな成長戦略を描けるか。岸田政権が掲げる「新しい資本主義」は、この国が目指すべき明確な方向性を示せているだろうか。議論の深層には、単なる技術導入や既存経済指標の追求に留まらない、「価値とは何か」という根源的な問いが存在する。日本独自の価値観に基づく社会システムのデザインは急務である。本稿では、この問いに挑む専門家たちの対話から、日本の未来を左右する提言をQ&A形式でひも解く。
Q. 新しい資本主義の課題とは何か?
岸田政権の「新しい資本主義」は、デジタル、グリーン、量子、ゲノムといった個別の技術開発に重点を置くが、「どのような社会を目指すのか」という全体像が見えない。これは国民に戦略の新しさを伝えきれておらず、従来の政策と大差ないと映る恐れがある。経済や産業のゲームのルールは、何を「価値」と見なすかによって決まるため、「価値」の定義付けこそが根本的に重要となる。例えば、電気自動車(EV)への移行で日本企業が苦戦するのは、この価値定義とルール作りの競争に負けた側面が大きい。多様な幸福(ハピネス)を認めつつ、社会運営の共通ルールとして何を「幸福」とみなすかを決める社会的合意形成が今求められている。
Q. 経済指標GDPの限界と、新たな「価値」を測る必要性とは何か?
国民総生産(GDP)は現在の経済指標の王様だが、その開発者自身が「幸福を測るものではなく、国家の戦争能力を測るものだ」と明言している。つまりGDPは、現代社会の多様な「価値」を適切に反映できていない。幸福度、シェア経済、中古市場、さらにはデータが持つ計り知れない価値など、GDPには組み込まれていない重要な要素は多い。古典である新渡戸稲造の『武士道』が示したような、「利他」の精神に根差した「実践知」を現代の社会システムに再構築し、幸福やウェルビーイングといった新しい価値を定量的に測る指標を開発する必要がある。この新しい経済統計の構築は、産学が連携して取り組むべき喫緊の課題である。政府任せにせず、ミクロの経営者がパーパス経営を通じて従業員の幸福度を計測し向上させるアプローチも有効な手段だ。
Q. 日本が直面する少子高齢化社会を乗り越えるための新たな「傲慢さ」とは何か?
日本社会に蔓延する「ラストチャンス」という悲観的な言説は、敗北を前提とする思考停止を招いている。むしろ日本は、韓国やシンガポールに先駆けて少子高齢化社会を経験する「課題先進国」として、「世界に先駆けて新しい社会・経済運営のルールを作る」という“謎の傲慢さ”を持つべきである。日本はすでに「禅」や「生きがい」といった内面的な価値観を世界に輸出し、成功を収めている。これを拡張し、安全で文化的にも経済的にも豊かな日本の地方都市のような生活モデルを、デジタルシステムを含む社会システム全体としてパッケージ化し、輸出する「日本ハピネス版一帯一路構想」こそ、日本の新たな活路となる可能性がある。英語の「Life」とは異なる「庶民性」や「生活臭」を内包する「生活(SEIKATSU)」という概念自体が、新たな価値をまとわせて輸出できるかもしれない。
Q. 旧態依然とした日本の社会構造を変革するためには、どのような「破壊的提案」が必要か?
物理学者のマックス・プランクは「科学は葬式のたびに進化する」と述べたが、これは社会全般にも当てはまる真理である。日本の歴史を振り返れば、明治維新も第二次世界大戦後の復興も、旧来の支配層が社会から退場させられることから始まった。これは自発的であるか否かを問わない。「経済同友会の解散」や「重鎮経営者の引退」は、社会に変革の風を吹かせるための象徴的な「破壊的提案」であり、社会の新陳代謝を促す重要な行動である。また、日本の生産性低迷の一因とされる非効率な「ゾンビ企業」が、補助金や融資によって延命されている現状も深刻である。政治がこの問題に踏み込めない以上、経済界が率先してこれらの企業の新陳代謝、すなわち「解散・引退・退場」を促す仕組みを作るべきである。筆者自身の会社でも経営者交代を進め、新体制が古い枠にとらわれない施策を推進する変化を肌で感じていると言う。
Q. 価値の再定義、一物多価の活用、そして来るべき震災への備えといった、具体的な「建設的提案」の内容とは何か?
破壊的な提言だけでなく、具体的な「建設的提案」も重要である。まず一つは、前述したように新しい「価値」、特に幸福を、誰もが理解できる測定可能なKPIとして再定義し、可視化することだ。二つ目は、人口減少時代において経済の効率性と柔軟性を高めるために「一物多価」の価格戦略を活用することである。Eコマースや保険商品に見られるように、技術的に個々の状況に応じた価格設定が可能になった現代において、インバウンド観光客と日本人といった、対象者によって価格を柔軟に変えることで経済全体のパイを広げることが可能となる。最後に、多くの地震学者が警鐘を鳴らす首都直下地震や南海トラフ地震への備えである。これは危機であると同時に、日本が根本から国を作り直す「震災復興維新計画」を策定する最大のチャンスである。関東大震災後の後藤新平の「帝都復興計画」に倣い、21世紀版の復興計画を今から準備する必要がある。
Q. 若者主導で未来を切り拓くために、既存の枠を超えたどのようなアプローチが考えられるか?
重鎮と若者が混在する会議体では、往々にして忖度が生じ、真の意見交換が難しい。経済同友会も、18歳から70代までが参加する「未来選択会議」を創設し、多様な意見の吸い上げを試みているが、若者からは「お飾りではないか」との批判も聞かれると言う。若者が本当に忖度なく未来を決めるためには、既存組織や重鎮の影響力から完全に独立した場が必要である。例えば、「未来選択会議」の延長として、若者たちだけの独立した組織、あるいは「未来選択都市」のような新たなコミュニティを創造することこそ、真の変革を生む土壌となる。既存の枠に囚われず、若者自身が未来を設計し、実装できる環境を提供することが、停滞する日本社会に新たな息吹を吹き込む最良の策となるであろう。
