
玉木代表に聞く「国民民主の経済政策」。「103万円の壁」の次の目玉政策は?
現役世代に豊かさを:国民民主党が語る日本経済の未来図
現在の日本は、長引くデフレからの脱却と物価高騰が混在する複雑な経済状況に直面している。このような状況下、国民民主党は既存の経済政策に対し、その独自のアプローチと問題提起を行っている。

玉木雄一郎代表は、特に供給サイドに焦点を当て、消費税や社会保険料の負担軽減、新たな成長戦略を通じて「現役世代から豊かになる社会」の実現を目指す。
本稿では、同党の経済政策における具体的な提案、政府・他党との見解の相違点、そして日本の未来に向けた展望をQ&A形式で深掘りする。
Q. 与党と国民民主党の消費税減税策にはどのような違いがあるか?
与党の食料品消費税ゼロは物価高対策と位置づけられる。これに対し、国民民主党が提唱する消費税率一律5%への時限的な減税は、デフレからの脱却を目指す経済対策だ。この根本的な目的の違いが政策の設計思想を分ける。
過去の研究では、消費税減税が物価抑制に及ぼす効果は限定的で、大半は企業の利益に吸収されると指摘されている。さらに、政府は減税のタイミングや期間を法律で定めなければならず、経済の動向に合わせた機動的な対応が難しい現状がある。例えば、イギリスのように政令で税率を柔軟に変更できる制度が日本では欠けており、政策効果を最大化する上での障壁となっている。

国民民主党の提案は「賃金上昇率が物価上昇率プラス2%に安定するまで」という条件付き、つまり状態依存型である。これは、経済状態が改善すれば速やかに元の税率に戻すことで、無駄な財政出動を避け、再燃するインフレを防止する狙いがある。
一方で、与党のような2年間限定といった時間依存型の政策は、期間終了前の駆け込み需要を誘発し、経済を不安定にするリスクがある。経済学者からは状態依存型の政策が推奨されることが多い。
Q. 消費税減税と合わせて社会保険料の軽減も提唱しているが、医療・年金制度改革と合わせてどのように実現するのか?
医療サービスを低下させることなく、負担のあり方を改める必要がある。具体的には、75歳以上の後期高齢者の医療費自己負担を原則2割とし、所得と資産の豊かな富裕層には3割負担を求めることで、現役世代の保険料負担増加を抑制する。
また、公的医療保険の対象範囲を見直し、OTC類似薬を外し、自由診療との組み合わせを柔軟に認めることで、持続可能な皆保険制度を目指す。
年金保険料は、所得税や住民税に比べて国民の負担感が大きい。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の予定を上回る運用益(約70兆円の余剰)を財源とすれば、将来の受給年金額を減らすことなく保険料率を時限的に引き下げられる。保険料率を1%引き下げるだけで、労働者の負担を年2〜3万円、企業負担を数百万円単位で軽減し、中小企業の賃上げ原資とすることも可能だ。
根本的には、名目GDP成長率の範囲内で医療費の増加をコントロールする新たな財政フレームを構築し、経済成長によって保険料負担の伸びを抑制するのが王道だと考える。実際、賃金上昇に伴う雇用者報酬の増加で、協会けんぽの保険料率が下がった例がある。
Q. 物価高騰と税負担に苦しむ家計へ、国民民主党版「給付付き税額控除」とはどのような仕組みか?
インフレによって得られる税収増、いわゆる「インフレ増税分」は家計を圧迫しており、国民に還元すべきだ。この還元策として、所得税・住民税の控除額引き上げを主張する。

理想的な給付付き税額控除は、所得や資産の正確な把握が必須であり、導入には10年以上かかると予想される。これに対し、国民民主党は既存制度を最大限活用した現実的な代替案を提案する。
国民民主党版「簡易版給付付き税額控除」は、定額の住民税減税と、住民税非課税世帯への社会保険料還付制度の組み合わせである。具体的には、住民税の控除額を引き上げることで約6万円の定額減税を行う。さらに、住民税非課税世帯に対しては、支払った社会保険料を上限として還付を行うことで、実質的に現役世代をターゲットにした支援となる。この還付は社会保険料を納めている現役世代が対象であり、高齢者に偏りがちな従来の支援策とは異なる。
これは、マイナンバーによる所得・資産把握が進んでいない現状において、最も現実的で即効性のある「給付付き税額控除」に近い制度であると自負している。
Q. 現在の日本経済が抱える真のボトルネックは何だと考えるか?
日本経済の成長を阻害する最大のボトルネックは、需要サイドの議論ではなく、むしろ供給サイドにある。特に「人手不足」と「高価で不安定なエネルギー供給」が深刻な問題だ。
多額の投資を行っても、それを動かす人がいなければ「絵に描いた餅」に過ぎない。サービス産業では人手不足が稼働率を押し下げ、機会損失を生んでいる現状がある。
また、AIやデータセンターなど次世代産業にとって不可欠な電力は、世界中で争奪戦が起きている。日本、特に東日本では安価で安定した電力供給が長期的に確保されていない。これは、エネルギー資源のほとんどを輸入に頼り、年間30兆円もの資金を化石燃料輸入に費やしている現状が構造的な円安要因にもなっている。
労働供給制約とエネルギーコスト、これら二つのボトルネックの解消なくして、日本の真の成長は望めない。
Q. これらのボトルネックを解決するための、国民民主党が掲げる供給サイドの成長戦略「新三本の矢」とは何か?
経済成長の三要素(労働、資本、生産性)に基づいた、体系的な供給サイド戦略が「新三本の矢」だ。
第一の矢は「手取りを増やす」ことである。年収の壁撤廃など税制改革により、働く人が安心して労働市場に参加できるようにし、労働供給の制約を解放する。
第二の矢は「投資を増やす」ことだ。ハイパー償却税制(即時償却プラス3年間の繰越控除)を導入し、民間企業の資本蓄積と設備投資を大胆に促す。これにより100兆円規模の民間投資を300兆円へと拡大を目指す。
第三の矢は「教育科学技術予算を増やす」ことである。イノベーションの創出と生産性向上に繋がる研究開発と人材育成への投資を大幅に拡充する。この戦略を通じて、名目GDPを10年余りで1000兆円に引き上げ、それに伴う税収増で財政健全化も図れると予測する。
さらに、人手不足の今こそ労働市場の流動化を進める好機だ。転職や学び直しを検討する労働者が安心して一歩を踏み出せるよう、失業手当終了後も一定の所得を保障する「求職者ベーシックインカム」を導入し、国がセーフティーネットを整備するべきだと提案する。
Q. 国民民主党の政策には「財源がない」という批判が寄せられるが、これに対しどのような具体的な回答があるか?
「財源がない」という批判に対し、すでに具体的な提案を行っている。103万円の壁引き上げの財源はインフレに伴う税収増であり、政府・与党も公式文書で「新たな財源確保措置を要しない」と認めている。政策は単に要求するだけでなく、財源確保策も提示済みだ。
具体的な財源策として、日銀が保有する約90兆円規模のETFを挙げる。非現実的な100年をかけて売却するのではなく、取得期間に合わせた20年程度の期間で売却すれば、毎年数兆円規模の税外収入が確保可能である。

また、税制の簡素化も重要な財源策だ。基礎控除と給与所得控除を統合する人的控除の抜本的見直しや、外国人旅行者に対する消費税徴収強化なども提案している。
しかし、こうした具体的な提案は、既存の制度変更を嫌う政府・官僚側によって拒否されてきた側面もある。政策は机上の空論ではなく、現実的な制度改革を伴わなければ絵空事になりかねない。国は成長産業の目利きを民間に任せ、政府は税制などで環境を整備することに徹すべきだと考える。
Q. 国民民主党の経済政策における最も重要なメッセージとは何か?
国民民主党の経済政策の中核をなすのは、一貫して「現役世代から豊かになろう」というメッセージだ。
税や社会保険料で重い負担を強いられている現役世代の可処分所得を具体的に増やすことが、この国の未来を拓く第一歩である。所得税の壁対策の成果に続き、次は住民税の控除額引き上げを通じて、国民のさらなる負担軽減を目指す。
また、福祉制度等の対象者判定に安易に「住民税非課税世帯」という基準を使う現状を改め、所得と資産を正確に把握し、真に支援が必要な人を特定するための新たな政策インフラを構築することも訴えている。
短期的な経済変動への対応と、中長期的な潜在成長率向上を目指すサプライサイド政策の両輪で、この国の希望を紡ぐ。