
いまさらきけないステーブルコイン
日本初の円建てステーブルコイン、JPYCが拓く新しい決済の未来
JPYC代表の岡部典孝氏にインタビュー。2025年8月に金融庁からライセンスを取得し、今秋に発行開始予定の日本初の円建てステーブルコインについて詳しく解説する。ステーブルコインとは何か、どのようなメリットがあるのか、そして日本の通貨主権を守るために戦うJPYCの挑戦に迫る。

Q. ステーブルコインとは何ですか?
ステーブルコインとは、ブロックチェーン上に記録された、1円=1JPYや1ドル=1USDのように法定通貨に連動して設計された決済手段です。従来の暗号資産と違い、価格が安定しているため決済や資産運用に使いやすく、会計・税務処理も容易になっています。

現在、世界では約44兆円のステーブルコインが発行・流通しており、1日の取引高は約20兆円に達しています。主に資産運用の分野で使用され、AIによる自動取引も盛んに行われています。
Q. ステーブルコインと電子マネーの違いは?
ステーブルコインは、PayPayやSuicaなどの電子マネーとは大きく異なる特徴を持っています。まず、ステーブルコインはデジタル現金として機能し、物理的な形を持たないため世界中に電子的に送金できます。
さらに重要な違いは、電子マネーが特定の加盟店でしか使えないのに対し、ステーブルコインは加盟店に縛られず、世界中どこでもデジタル円やデジタルドルとして使用できる点です。
また、ステーブルコインはプログラマブルマネー(プログラム可能なお金)として、自動で送金・処理ができるという特性も持っています。例えば、AIでの送金や、インターネット上での自動販売機のような機能を実現できます。
Q. ステーブルコインを使うメリットは?
ステーブルコインの最大の特徴は、手数料が非常に低いことです。従来の国際送金では6〜7%の手数料がかかることもありましたが、ステーブルコインではわずか0.1%程度、さらに少ないケースもあります。
企業側から見ると、クレジットカード決済では入金までに2週間〜1ヶ月かかることがありますが、ステーブルコインでは瞬時に入金され、すぐに使えます。また、グローバル展開する企業が各国で銀行口座を開設する必要がなくなり、資産の自動管理もプログラムで行えるようになります。これにより資産効率が向上し、財務のあり方そのものが変わる可能性があります。
Q. 世界のステーブルコイン市場はどうなっていますか?
現在、世界のステーブルコイン市場の約99%をアメリカのステーブルコインが占めています。代表的なものには、2015年に香港のテザー社が作ったUSDT(テザー)があり、市場シェアの約2/3を占めています。次いでサークル社のUSDC(USコイン)があり、この2つで全体の約85%のシェアとなっています。
両者の違いとして、USDCはアメリカの規制に準拠し透明性を重視しているのに対し、USDTは規制の枠外で柔軟な運用をしているという特徴があります。どちらが優れているというより、それぞれにメリットがあり、ユーザーの目的によって使い分けられています。
Q. 日本円建てのステーブルコインが必要な理由は?
円建てのステーブルコインがなければ、ブロックチェーン上での取引やAIによる自動取引などの新しい決済の世界で、日本の企業や個人はドルとの為替リスクをヘッジしながら取引せざるを得なくなります。これは大きな負担となり、結果的に日本円の存在感が薄れてしまう恐れがあります。
JPYCがあれば、日本円と同じ感覚で会計や税務処理ができるため、世界の決済システムの中で日本が平等なスタートラインに立てます。実際、通貨主権を守るための「デジタル通貨冷戦」が始まっており、日本代表として日本円や国債の価値を守るために戦っているのがJPYCなのです。

Q. JPYCはどうやってライセンスを取得したのですか?
JPYCは2021年に日本初の円建てステーブルコイン事業を開始し、2025年8月に金融庁からライセンスを取得しました。このライセンス取得までの道のりは非常に困難でした。
JPYCが大手銀行よりも先にライセンスを取得できた理由は主に3つあります。
アメリカのサークル社からの出資を受け、運営ノウハウと実績があった
銀行が新規事業の一部として取り組む中、JPYCはステーブルコインだけに100%リソースを集中投下した
銀行にとってはリスク管理の観点から本腰を入れにくい事業である一方、JPYCはこの事業がなければ存続できないため全力で取り組んだ
実質的に「銀行を作る」ほどの難しさがあったこの挑戦に、他のスタートアップも何社か取り組みましたが、大変さのあまり全て脱落してしまいました。
Q. JPYCの運用方法とリスク対策は?
JPYCは、ユーザーから預かった資金の101%を法務局に預けることを基本としています。具体的には、その一部を信託銀行の預金に、残りの半分から80%程度を日本国債で運用しています。これにより、万が一JPYCが破綻した場合でも、ユーザーの資産はほぼ全額返還される仕組みになっています。
ステーブルコインのリスクとして「デペッグ」(価値の乖離)が懸念されますが、主に3つのケースが考えられます。
サイバー攻撃による資金流出事故
提携銀行の破綻
国債の信用低下やデフォルト
特にサイバーセキュリティに関しては、「世界中のサイバー戦争の最前線」と表現されるほど常に攻撃のリスクがあり、JPYCは国家レベルの攻撃に対しても自社の力で守り抜かなければならない立場にあります。
Q. 今後JPYCはどう展開していくのですか?
JPYCの今後の展開として、まず2025年秋の発行開始を成功させることが第一歩です。続いて、現在予定している主要3つのブロックチェーンから、より多くのチェーンへの展開を目指します。

さらに日本国内の取引所だけでなく、海外の取引所でも現地通貨と交換できるようにすることで、国際貿易での利用も促進します。将来的には給与支払いや出資金の払い込みにも使えるよう規制緩和を進めていく計画です。
目標としては、世界のステーブルコイン市場の10〜25%のシェアを獲得し、アジアの人々が円を使って世界中の市場にアクセスできる環境を作ることを目指しています。同時にIPO(株式公開)も視野に入れており、日本の通貨主権を守るため、外国資本に買収されないよう成長を続けていくことが重要だと考えています。
Q. ステーブルコインはどのように普及していくのでしょうか?
ステーブルコインの普及は、まずは投資のプロや暗号資産に詳しい個人ユーザーから始まり、徐々に一般に広がっていくと予想されます。特に初期は「キャリートレード」と呼ばれる金利差を利用したプロ向けの取引が中心になるでしょう。
JPYCの目標は3年で10兆円規模の流通を実現することで、1兆円規模になれば一般のコンビニなどでも直接使えるようにする計画があります。
重要なのは、ステーブルコインがiPhoneの発売前夜のような状態にあるという点です。現在、多くの開発者がJPYCを活用したアプリケーションを開発しており、これらが広がることで新たな使い方やサービスが次々と生まれていくでしょう。私たちが予想もしていない革新的なユースケースが登場する可能性もあります。