
世界トップ大学生はなぜ日本就職を狙うのか?
海外トップ学生から見た日本の魅力とは?予想を覆す最新事情
「日本の企業は世界トップクラスの学生を採用できない」というイメージが強い中、最近の潮流は変わりつつある。Jelper Club代表取締役の光澤大智氏によると、世界トップ大学から日本企業への就職希望者が増加しているという。なぜ今、海外の優秀な人材が日本に目を向けているのか?採用のチャンスをつかむために企業は何をすべきか?

世界のトップ学生は今、日本に注目している?
Q: 世界トップクラスの学生の間で、日本で働くことへの関心は高まっていますか?
日本で働くことを検討している世界トップ学生は明らかに増えてきています。これは直近の傾向なので具体的な数字としてはまだ出ていませんが、一昨年やその前の年と比べると非常に強い手応えがあります。Jelper Clubのプラットフォームにアプライしてくる学生の数もかなり増加しています。
日本の給与は本当に低いのか?コスパの真実
Q: 日本は給与が低いイメージがありますが、実際のところどうですか?
日本の企業の給与は低いと言われることが多く、企業側からも「うちの給与で海外トップクラスの学生が来るのか」という不安の声をよく聞きます。しかし、実際に日本で働きたいと言っている学生にヒアリングをすると「日本は物価と比べたら全然悪くない」という声が上がっています。
Jelper Clubでは、同一物価水準における平均時給を分析しました。ニューヨークの物価水準に置き換えた場合のG7諸国の平均時給を見ると、2018年から2020年の日本は、アメリカ、イギリス、イタリアよりも高い水準で、ほぼフランスと同じレベルでした。2024年の推計では、日本はイギリスとほぼ変わらない水準になると予測されています。

実際、ロンドンやニューヨークでは、トップの戦略コンサルティングファームや金融機関で働く学生でも、マンハッタンには住めずに郊外に住んでいたり、シェアハウスをしている例も多いのです。収入が高くても支出も大きければ、結局手元に残るお金は少なくなります。この「コスパ」の視点は、本当に優秀な学生ほど理解しています。
Q: 給与以外に日本が魅力的に映る要因はありますか?
単にコスパだけでなく、日本文化への憧れも大きな要因です。現在の大学生世代は、私が学生だった時よりも1.5〜2倍ほど日本文化に対する憧れが強いと感じます。
彼らの人生の楽しかった時期には、いつも日本の要素があるのです。友達と遊ぶときにはゲームをし、親から見せられる教育番組もセサミストリートではなく、ジブリ作品だったりします。お祝いごとには寿司レストランに行くなど、彼らの楽しい思い出には日本が関わっていることが多いのです。
さらに、TikTokなどのSNSで日本が「理想の地」として映えるように紹介されていることも、日本への憧れを高めている要因です。また、生活の質や政治的安定度の高さも、トップ学生にとって日本が魅力的に映る理由の一つです。
日本企業が海外トップ人材獲得で参考にすべき国とは
Q: 日本がさらに高度な海外人材を迎え入れるために参考にできる国はありますか?
シンガポールは非常に参考になる国です。世界トップ学生を積極的に受け入れた最初の国がシンガポールです。
歴史的に見ると、1970年代のベトナム戦争終結後、アメリカが反アジア感情を払拭するために東アジアや東南アジアからの移民を積極的に受け入れた時期がありました。その結果、シンガポールの優秀な人材の約5%がアメリカやイギリス、オーストラリア、ニュージーランドなどに流出してしまいました。
これに危機感を抱いた当時のリー・クアンユー首相は、国全体で欧米のトップ大学に人材を派遣し、シンガポールの就労先としての魅力をアピールするリクルーティング活動を展開しました。彼らは「アジア人のオアシス」というコンセプトで、文化的距離が近くアジアのハブとなっているシンガポールの魅力を発信したのです。
この結果、流出した5%の人材を補填するだけでなく、さらに優秀な学生の受け入れに成功しました。この過去の政策は、日本も大いに参考にすべきでしょう。実際、岸田政権はJ-Find制度などの世界トップ学生向けの受け入れ制度を立ち上げており、日本も動き始めています。
日本企業が世界トップ学生を採用するために必要なこと
Q: 日本企業が本気で世界トップ学生を採用するためには何が大事になりますか?
最も重要なのは「受け皿を作る」ことです。そもそも日本の企業の多くは、世界トップ学生を採用しようとしていません。これを変えなければ採用に至ることはないでしょう。
なぜ採用しないかというと、人事担当者のKPIに関係しています。日本の大企業では人事が2〜3年で異動するケースが多く、既存のKPIさえ達成していれば評価が良いため、採用面でチャレンジする土壌があまりありません。

また、最初はミスマッチが起きるという前提で採用を進め、すでに採用した外国人学生を次の世代のメンターとして活用し、日本での生活をサポートする体制を構築することも必要です。これは5〜10年単位の長期的な視点で継続的に取り組むべき課題です。そうしないと、5年後、10年後には新卒採用の母集団の質が目に見えて低下してしまうでしょう。
Q: 日本語ができないと採用は難しいですか?
企業によって異なります。「日本語ができないと不可」という企業もあれば、「日本語ができなくても可」という企業もあります。
興味深いことに、最近は日本で働きたいと考えて日本語の勉強を始める世界トップ学生も増えています。しかし、多くの日本企業は日本語要件が高く、ネイティブレベルでなければならないというケースが多いのが現状です。そうなると、採用できる層は非常に限られてしまいます。
日本語に対する要件をある程度緩和する姿勢が大切です。実際に多くの企業では、英語で仕事ができる環境や、海外事業部など日本以外の市場を担当する部署に配置するケースが多いです。
メンバーシップ型雇用は最先端の制度だった?
Q: 日本のメンバーシップ型雇用は世界トップ学生に不人気ではないのですか?
これは大きな誤解です。日本企業からは「メンバーシップ型雇用は古い制度で、世界トップ学生は馴染まないだろう」という声をよく聞きますが、実はこれは世界最先端の雇用制度かもしれません。
生成AIの発達により、ジョブ型雇用で就職した職種がいつなくなるかわからないという不安が学生の間でも広がっています。一方で、ジョブローテーションでさまざまな仕事を経験でき、自分の適性を見つけていける上、解雇の心配も少ないメンバーシップ型雇用は、実は世界トップ学生の就職ニーズにマッチしている制度なのです。

ここにも認識のギャップがあります。学生側は「メンバーシップ型雇用で良い」と思っているのに、企業側は「どうせ入りたくないだろう」と思い込んでいるのです。自社の雇用制度や採用スタイルに自信がない企業が多いですが、実際には世界から見た日本と日本から見た日本には大きな乖離があります。日本企業はもっと自国に誇りを持つべきでしょう。
世界トップ学生の採用が日本企業にもたらす効果
Q: 世界トップ学生の採用は日本企業にどのような効果をもたらしますか?
現在の日本の就職市場は、学生側にとって非常に有利な状況です。これは国としての競争力という観点では良くない状況かもしれません。競争がないと国として成長していきません。
いわゆる「ゆるふわ企業」と呼ばれる、入社してリモートで定時だけ働き、その後は特に成長もしていないという学生が増えています。そこにハーバードやスタンフォードといった競争環境で学んできた学生が入るだけで、組織は引き締まるでしょう。日本の企業や社会への起爆剤として、こうした学生を採用することは非常に効果的です。
また、日本国内のトップ学生も優秀な仲間と働きたいと考えています。世界トップ学生を採用する企業は、必然的に国内の優秀な学生からも注目されるようになります。ある日本のスタートアップでは、世界トップ学生の内定者インタビューをノートで公開したところ、国内からの応募者の質が格段に上がったという事例もあります。
どんな国の学生が日本に関心を持っているのか
Q: どの国の学生が日本に興味を持っているのでしょうか?
中国からの学生が多いのは事実ですが、中国だけではありません。韓国、台湾などの東アジアや東南アジアの学生全体的に多い傾向にあります。
最近目立って増えているのが欧州の学生です。これはアメリカとの大きな違いで、欧州の学生は日本企業が持つ「ヘリテージ(歴史的遺産)」に関心を持っている傾向があります。欧米では現在、「クワイエット・ラグジュアリー」という、目に見えるキラキラした表面的な華やかさよりも歴史や伝統を重視する消費傾向があり、そういった価値観を持つ日本企業で働きたいという学生が増えています。
ある伝統的な日本企業に就職を希望していた欧州の学生は、「その企業で働くことは自分にとっても家族にとっても誇りであり、その歴史の一部になりたい」と語っていました。この「ヘリテージ」は日本企業の最大の強みの一つと言えるでしょう。
また、意外なことに日本の地方に憧れを持つ学生もいます。これはジブリ作品の影響が大きく、日本人の普段の生活をロマンチックに描写した作品に影響され、田舎での生活に憧れて地方企業を目指すケースもあるのです。
こうした傾向を見ると、今や日本企業にとって、世界トップクラスの学生を採用するチャンスが広がっています。このチャンスを活かし、長期的な視点で取り組むことが、日本の産業界の未来にとって極めて重要と言えるでしょう。
