
スポーツとテクノロジーの活用
パリ五輪とテクノロジー:AI×スポーツが変える競技の未来
スポーツとテクノロジーの融合が進む現代、パリオリンピックでも様々なテクノロジーが活用されていました。選手の動きを解析するAI、審判の判定を補助するシステムなど、競技の公平性や観戦体験を向上させる技術が導入されています。今回は、スポーツテックのプロフェッショナルである高久侑也氏に、オリンピックを支えるテクノロジーの現在地と、スポーツにおけるAI活用の未来について聞きました。

Q. パリオリンピックではどのようなテクノロジーが使われていましたか?
全体を通して様々な場面でテクノロジーが活用されていました。特に面白かったのはセーリング競技です。従来はドローンなどを使って空撮し、2次元上でどう動いているかを表示していたものが、より臨場感を持って、実際の自然環境の数値データや展開状況が伝わるようになりました。これはテクノロジーによる視聴体験のアップデートの好例です。
また、国産の事例としては富士通が体操競技で提供しているシステムがあります。これは採点に既に活用されており、難易度の高い技を人間の目で見て判断するのに時間がかかってしまうようなところも、瞬時に判別しながら公平性を担保して評価できるようになっています。
Q. 採点競技とゲーム型競技ではテクノロジーの活用に違いがありますか?
スポーツのジャンルの中でも、採点競技と、サッカーなどゲーム性が高いものがあります。採点競技に関してはテクノロジーがジャッジをしていくという点で相性が良いと思います。サッカーでは現在、VARのさらなるアップデートが進んでいます。従来の専用機材ではなく、iPhoneを活用して24〜28台のカメラで体の座標を7,000点から1万点ほど取得しながら正確に評価するところまで進展しています。
ハードウェア自体が手軽になってきていますし、それに追いつく形で精度と速度も向上してきています。VARは時間がかかることが問題点として挙げられていましたが、それをカバーするために新しい技術が採用されてきているのです。
Q. AIを活用したトレーニング方法はどのように発展していますか?
中国のバイドゥが開発している飛び込み競技向けのシステムは興味深い事例です。飛び込みは1.8秒という短い時間の中でいかに優れたスキルを発揮するかが重要なので、AIで数値化しながらトレーニングしています。今回の大会でも中国の選手が40点差をつけて金メダルを獲得しましたが、AIでトレーニングしてメダルを獲得するという時代に突入しています。
このシステムでは、優れた演技をAIに学習させ、それと比較したり、自分の1ヶ月前の動きと現在の動きを比較したりできます。人間は「なんとなく良い」「なんとなく悪い」という感覚的な判断になりがちですが、AIを使えば「入水角度43.2度」といった具体的な数値でフィードバックできるため、採点に直結する形でトレーニングできるのが大きな利点です。
Q. テクノロジーの活用でタレント発掘も変わってきているのですか?
インテルが今年4月にセネガルで実施した取り組みが注目されています。ジュニアアスリート向けにタレント発掘をするためにAIを活用しており、映像を撮影してその個人の身体能力の高さや、オリンピック選手に向いているかどうかを膨大なデータを活用しながら評価するものです。
これまでは特定の動きをトラッキングするために細かいマーカーをつけて専用のスタジオで撮影する必要がありましたが、今ではスマホで撮るだけで映像を分析できるようになっています。AIで手や頭、足などの部位を認識できるからこそ可能になった技術です。
これにより、お金やコネクションがなくても正しい指導が受けられるようになるという点は大きなポイントです。
Q. テクノロジーを用いた判定は完全に正確なのでしょうか?
どうしても誤差が生じる可能性はありますし、人間もテクノロジーも「見えていないもの」は判断できないという制約があります。ただ、人間の目に比べれば圧倒的に精度は高いです。人間が見えなかったところを見えるようにして、間違いを防ぐというのが大前提にあります。
一方で、テクノロジーの導入には反対意見もあります。人間らしさが失われるという懸念や、テクノロジーが全て正しいとなると、テクノロジーに従うように競技スタイルが変わっていく可能性もあります。例えば野球では「フレーミング」と呼ばれる、キャッチャーがボールをストライクに見せる技術がありますが、ロボット審判が導入されるとこうした人間の技術が評価されなくなります。
何を面白いと思うかは人それぞれなので、テクノロジー導入の是非は難しい問題です。
Q. 具体的な選手との取り組み事例はありますか?
ハイパフォーマンス、つまりメダリストの方々との違いを分析しながら練習につなげていく取り組みをしています。例えば国の指定施設で使われているシステムでは、高さなど実際の評価に直結する要素を数値化して活かしていくことができます。スマホで操作できるので手軽であり、キッズからトップアスリートまで幅広く活用できるのが特徴です。オリンピック選手にも活用いただいています。
きっかけは「AIで何かできるのではないか」という相談からです。例えば日本スケートボード連盟と協力しているケースでは、平野歩夢選手の父親が野球やゴルフで行われているような分析をスケートボーディングに応用できないかという相談から始まりました。いかに再現性高く高いパフォーマンスを出していけるかという課題設定で協力しています。
Q. サッカーや野球などでのデータ活用はどのように進んでいますか?
サッカーでは基礎的な部分、走り方やジャンプなど怪我に関連するものや、選手の将来のパフォーマンスを予測する観点での分析を行っています。例えばジャンプの着地時に膝が内側に入っているかどうかを確認することで、前十字靭帯損傷(ACL)といった怪我を予測することができます。
こうしたデータはスカウティングにも活用でき、基礎的な身体能力から将来の活躍や身長の予測なども試みられています。技術的には難しい面もありますが、こうしたデータ分析はどのスポーツでも活用できる可能性を秘めています。
野球は特に分析がしやすく、投球や打撃の分析をリアルタイムで行えるシステムが発展しています。従来は動作の映像分析に時間がかかっていましたが、今ではリアルタイムに処理して自分の感覚と客観データを突き合わせることができます。大谷選手やダルビッシュ選手など、テクノロジーをうまく活用している選手も増えてきています。
Q. 今後のスポーツテクノロジーはどのように進化していくでしょうか?
トップスポーツだけでなく、一般の方々も使えるよう周辺領域に広がっていくことが重要です。例えば健康維持のための歩き方の指導や、腰痛予防のためのトレーニング方法の提案、介護領域での活用など、様々な可能性があります。
健康分野では姿勢分析が分かりやすい例で、個人の健康維持には筋肉が重要なため、そうした分析をしながら生き生きと働けるようサポートすることが可能です。高齢者向けには歩行分析による転倒リスク軽減、トレーニング時のフォームチェック、リハビリの進捗確認など、幅広い活用方法があります。
最終的には、人間が今までやっていたことを全てAI化することを目指しています。単にデータを取得して表示するだけでなく、その人が何をすれば良くなるのかを数値化し、健康増進や競技成績向上につなげていきたいと考えています。
例えるならば、野球ゲームの「パワプロ」のような世界を作ることです。トレーニングによって経験値が数値化され、それが能力値として反映される。そのような世界を様々な競技や健康分野で実現し、楽しみながらヘルスケアに関わる取り組みができるようになればと思います。将来的には、ダイエット目標や理想のウエスト数値に対して、具体的に何をすればそれが達成できるかをシミュレーションできるようなシステムを作りたいです。