
ジョブ型人事制度 KDDI流の答え【KDDI髙橋誠社長】
大企業トップが語る「10兆円企業を率いる楽しさ」とスタートアップへの提言
KDDI社長として7年目を迎えた高橋誠氏。10兆円企業を率いる立場から、大企業の可能性や日本型ジョブ制度の在り方、そして日本のスタートアップシーンへの提言まで、率直な思いを語ってくれた。

Q. 10兆円企業を6年以上経営する中で、最も楽しいことは何ですか?
日経新聞に載っていることなら何でも自分たちでもできると思えることです。他社が新しいことに挑戦しているという記事を見たとき、普通の立場なら「へえ、そうなんだ」と思うだけですが、私の場合は「私たちもできる」と思えるのが最高に楽しいです。
毎朝3時頃に一度目が覚めるのですが、そのときにはすでに電子版が配信されています。それを読むと、ワクワクすることもあれば「やられた」と思うこともあります。イライラして眠れなくなることもありますが、そういう感覚が経営者としての醍醐味です。
Q. 現在の心境は、今でもベンチャー企業の社長のような気持ちですか?
そうですね。ベンチャー企業の気持ちを持ち続けることで、「明日にでも新しいことができそう」という感覚があります。その気持ちを何十年も持ち続けながら、ポジションが上がるにつれてできる領域が広がっていくのは面白いことです。
例えば部長になると部全体の領域が広がり、さらに上の立場になるとできることがどんどん大きくなります。生成AI向けのGPU環境を構築するために1,000億円を投資するといった決断もできる。それは非常に楽しいことです。
もちろん辛いこともたくさんありますが、ベンチャー時代の心構えを忘れないようにしています。
Q. 時代の流れが速い中で、大企業はどのように変化していくべきだと思いますか?
大企業も新しいクリエイティブな仕事に挑戦すべきです。社長直轄で新規事業部隊を作るのも一つの方法ですが、その部隊だけが独立して「デジマ化」してしまうと面白くありません。基幹事業と新規事業がうまくコラボレーションできる体制が重要です。
最近、OpenAIを訪問したときに気づいたのは、彼らの組織構造です。「リサーチャー」という研究者グループと「セールス」部門の間に「アライド」という役割の人たちがいました。彼らは新しい技術をどう世の中に適用させるかを考える橋渡し役です。
新しい技術はセールス部門から嫌がられがちで、研究者はプロダクトアウト的な思考で話をするため、両者の間に隙間ができます。この隙間を埋める「トランスレーター」のような役割が、新技術を世に出していく上で非常に重要だと感じています。
Q. 日本型のメンバーシップ雇用とジョブ型雇用のバランスについてはどうお考えですか?
私たちの会社では3年ほど前に「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入しました。メンバーシップ型雇用では、自分の専門性が明確でないため、「もし会社が潰れたらどうやって生きていくのか」という不安がありました。
これからは自分のスキルや専門性を持つことが重要です。それがジョブ型人事制度の根幹であり、そうした制度を取り入れるべきだと思います。
当社では新入社員の約6割が入社前から進みたい職種を選べる「ウィルコース」という制度や、自分の専門性を活かして新しい仕事に挑戦できる公募制度など、複数の取り組みを導入しています。こうした制度によって、社員一人ひとりが専門性を磨き、様々な職種にチャレンジでき、自信をつけられます。
ただし、日本企業の強みである企業文化や組織力も大切にする必要があります。アメリカではGAFAMのような新しい会社が国を引っ張っていますが、日本では歴史ある会社が中心です。ジョブ型の流動性が上がると企業文化が薄くなる懸念もあるため、「KDDI版」として人間力の強化も合わせた形で導入しています。
Q. 人間力はどのように評価されるのですか?
当社では京セラの稲盛さんのフィロソフィーを大切にしており、「人として何が正しいか」という考え方を重視しています。それを学ぶことが人間力形成につながります。
評価としては360度評価を導入しています。上司からの評価だけでなく、部下や周囲からの評価も含まれます。上司には良い顔をしていても部下から嫌われている人もいますから、そういった全方向からの評価を取り入れています。
人事制度は企業の基礎力を作る仕組みなので、常に他社の取り組みからも学びながら改善を続けています。
Q. 日本のスタートアップシーンについて、課題と感じることはありますか?
スタートアップの数は増えてきました。しかし、ちょっと成功したらそこで満足してしまうスタートアップが多いように感じます。
海外のスタートアップは1ラウンド成功すると、次のステップに進むか、他のスタートアップを支援するかを考えます。しかし日本では一度成功すると「キャンプか釣りかサウナ」に行ってしまう人が多いと言われています。
そこで終わるのではなく、もっと大きな夢を持つスタートアップと一緒に、より価値の高い企業を作っていくことが重要です。当社はCVCを通じてスタートアップ支援を行ってきましたが、これからは「横」より「縦」の成長、つまり規模を大きくすることに注力したいと考えています。
例えば「スイングバイIPO」という取り組みがあります。これは当社にM&Aされた後も、グローバル展開を見据えてIPOを目指す仕組みです。テクノロジー企業がエンジニアを獲得するためには、その先の夢が必要です。このような仕組みを通じて、ユニコーン企業を目指すスタートアップを支援していきたいと思います。
Q. スタートアップが大きく成長するための鍵は何だと思いますか?
それは経営者の意思です。特に経営者とそれを支えるCFOの組み合わせが重要です。
また、「動機善なりや、私心なかりしか」という言葉も大切にしています。これは迷った時に立ち返るべき言葉で、「自分のためだけではなく、世の中のためになっているか」を問いかけるものです。常に何かに迷った時に、こうした判断基準を持つことが重要です。
スタートアップの成功のためにベクトルを向けること、そして自分たちの会社が成功することでどう世の中が良くなるかを考えることが、大きな成長につながるのだと思います。
