2023/11/29
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竹下 日本を代表する家電メーカー、パナソニックが「未来のモビリティ体験を具現化したコンセプトカーを展示すると聞いて、どんなものだろうとワクワクしました。
実際に乗車体験もしてみましたが、まるでリビングルームがそのまま街へ移動するような感覚で面白かったです。
自動運転やAI感知によるコミュニケーション、電力消費の効率化など、さまざまなテクノロジーも搭載されていますね。
この「未来のモビリティ」がどのような構想をもとに開発され、具体化に至るまでどんな苦労があったのか、開発チームを率いた宮道敏広さんに根掘り葉掘り聞いてみたいと思います。
宮道 よろしくお願いします。
竹下 さっそくですが、パナソニック オートモーティブシステムズが「2035年のモビリティ」として展示したコンセプトカー、「Mobile Living Room」のキーワードを教えてください。
宮道 私たちが今回表現したかったキーワードは「快適」「安心」「エコ」の3つです。
それぞれ、「移動時間からじぶん時間へ」、「クルマの安心から街の安心へ」、「意識高いエコから意識しないエコへ」という価値転換を表しています。
竹下 興味深いですね。詳しく伺います。まず「快適」については、どんな「快適」をクルマで実現しようとしているのでしょうか?
宮道 クルマが生む価値は「走る喜び」などさまざまだと思いますが、私たちが追求したのは「家族や友人との団らんの楽しみ」です。
クルマに乗る時間が、目的地まで到達するための単なる移動時間ではなく、みんなでワイワイと会話や交流を楽しめる時間になることを目指しています。
竹下さんに体験していただいたデモンストレーションでも、車室内の大きなモニターに映し出されたカフェの情報を見ながら、行き先で食べるメニューを選ぶというシーンがあったと思います。
竹下 「海から星空が一望できる絶景スポットがありますよ」と、地域のおすすめ情報も提供されていましたね。
カフェの店主が登場して移動しながら会話が生まれるなど、移動に伴う交流が広がる感覚がありました。
宮道 おっしゃるとおりで、家の中でインターネット検索するだけでは味わえない「移動中ならではの人とのつながりや地域の魅力の発見」を提供するための設計です。
竹下 ご自身は2035年の世界で「Mobile Living Room」に乗って、どんな体験をしたいですか?
宮道 私ですか(笑)。私には子どもがいまして、2035年にはちょうど成人するくらいの年齢になります。
移動しながら大きなモニターで映画を見たり、会話を楽しんだり、リラックスして過ごせる時間を楽しみたいですね。
竹下 家族の関係にはくらしの環境も深く影響しますよね。「リビングルームが移動する」という変化は、親子のあり方も変えると思いますか?
宮道 きっといい変化をもたらすと期待しています。
かつては反抗期の子どもが自室にこもるという話がよく聞かれましたが、最近は家族が一緒に過ごして交流する場としてリビングルームが機能するようになり、結果として親子間の会話が増え、「仲良し親子」が増えたとも言われています。
移動の時間も団らんを楽しむ時間へと変われば、さらに家族のコミュニケーションが促進されるのではないでしょうか。
竹下 面白いですね。かつて家族が集まる場所といえば「お茶の間」でしたが、その「お茶の間」が動くということですね。
それによって何が変わるのでしょうか?
宮道 家族で一緒に過ごす時間が、“場所にとらわれなくなる”という変化が生まれ、移動するからこそできる新しい体験が生まれると思います。
自動運転技術によって、運転に集中している時間が移動しながら自由に楽しむことができる時間になり、会話の量も質も充実するのではないでしょうか。
竹下 さらに伺います。3つのキーワードの一つ、「安心」に関して、「クルマの安心から街の安心へ」の意味とは?
宮道 例えば子どもの飛び出しを感知して事故を未然に防ぐ機能はすでに車体に実装されていますが、街全体に張り巡らされたセンサーも利用して、さらに精度を高めるというイメージです。
「曲がり角の10メートル奥から高齢者が歩行中」などの情報を感知して自動で減速・停止するなど、クルマの搭乗者だけでなく街に暮らす人みんなにとっての「安心」をつくる未来のモビリティ社会を構想しました。
竹下 社会全体の安心をつくる。いいですね。もう一つのキーワード、「エコ」は目指す社会像とも直結しそうですね。さらに伺っていきましょう。
第2話に続く